看板に偽りあり。なぜ

ランチタイム。
食堂のテレビで流れるクイズ番組を見ています。

「えー、『■頭■肉』に入る文字を答えるのか。『一頭牛肉』とか『鳥頭腿肉』とかかな」
おいおい、どんな肉料理なんだ。答えは『羊頭狗肉』かな。

「あ、正解です! 看板博士って、看板だけじゃなくて熟語にも詳しいんですね」
いやいや、社会人なら四字熟語の有名なのは知っておこうよ(って、…看板だけじゃなくてってどういう意味だ?)

「ところで、羊頭狗肉ってどういう意味なんですか?」
見た目や宣伝は立派だけど、中身は全然伴っていないことだね。
昔の中国で、羊の頭を看板にしておきながら、実際は犬の肉を売っていた店があったという話から生まれた故事成語だね。

「なるほど。やっぱり看板からの知識なんですね!」
えーと、決してそういうわけじゃ、ない、と、思うん、だけどなあ……(不安になってきたぞ)。

「実際、現代でもそういう偽りがある看板ってあるんですか?」
じゃあ、ウンチクついでに、そういう偽りの看板の話をいくつかしようか。

毎日が「閉店セール」

まずは軽めの雑学から。
「閉店セール」という看板を掲げているのに、昨日も今日も毎日営業しているお店。
これは偽りにはならないのでしょうか?

まず「看板」の広告表示は、「景品表示法」の対象となります。(正式には「不当景品類及び不当表示防止法」)
(参考:消費者庁 表示に関するQ&A 「景品表示法上の「表示」の定義を教えてください。」
http://www.caa.go.jp/representation/keihyo/qa/hyoujiqa.html#q1)

例えば、痩せる効果を謳いながらそのような効果がなかったり、安値を謳いつつ実は多数の備品が必要となり最終的には高額になったりなどは、不当な表示とされます。
そのような広告については、消費者庁から措置命令が出され、是正をしなくてはなりません。

さて今回の「閉店セール」ですが、若干のグレーゾーンはあります。

まず「表向きは「閉店セール」で特価を出しておきながら、実際はそんな価格で売られてない」場合。
これはもちろんアウトです。
そして「いつも同じ価格で売っておきながら、「閉店セール」と称してあたかも大幅に割引をしている」場合。
これも不当な表示とみなされます。
実際に、毎月同じ「今月だけ特価」を出している広告について、消費者庁から措置命令が出されたこともありました。

ただし、「本日の閉店時間が近いからセールするよ」という意味で出された広告の場合は、セーフとなります。
といっても、堂々と許諾されるわけでなく、あまりに目に余って誤解を生じさせる場合は、違反の対象となることもあります。

なお紳士服店などは「改装に伴う閉店」でセールを行うことが多くあります。
「閉店」というと、一見、「もうこのお店はこの地から消滅するんだ」と思いがちですが、そうでないパターンもあると頭の片隅に留めておくとよいでしょう。

「あと何km」の道路標識

看板に偽りあり。なぜ

看板の中には「駅南口からまっすぐ500m」「この角、右」といった目的地までの道案内をしてくれるものもあります。
中でも、「東京 50km」のように書かれた青地に白文字・白矢印の公共の案内標識は、ドライブをされるかたにはお馴染みのものでしょう。
ただ「あれ、もうその市内までわずかなのに、なんでもっと距離があると表示されているの?」と感じることもしばしば。

これは偽りでも間違いでもありません。
実は、案内標識の目的地の距離は、主に「市役所や町役場など、その市町村の中心までの道路に沿った距離」と法律で決められています。
ちなみに東京の場合は、かつては五街道の起点であった「日本橋」がその対象となっています。

また不動産業界では、徒歩何分という表現は「1分=80m」とされています。
これはハイヒールを履いた女性が1分間で歩くことのできる距離がベースになっているそうです。

逆さまでアピール? 「世界で一番まずい店」

「まずいラーメン屋」「地域で一番高い店」……。
ものすごくネガティブなメッセージですが、このような看板を出しているお店はあります。

このような看板を出すにはいくつかの狙いがあります。
まずは周辺との差別化です。
周りが「うまい」「美味しい」といった表現が立ち並ぶ中に「まずい」というメッセージを出すと、逆に目立つことができます。
ちょっと話は違いますが、「高い」という字だけを逆さにして「安い店」という点を暗号のように強調している看板もあります。

また、看板全体を逆さに貼ってとにかく目立とうとする看板もあります。
これらのユーモア看板も、大きく差別化となります。
一旦目に留まり、気になったら、他の看板よりもじっくり読んでもらいやすいという特徴があります。

また、期待値のハードルを下げるという効果があります。
「うまい」と謳ったお店で食べた料理が、実際美味しくなかった時は「うーん、だまされた」という気持ちになります。
反面、期待せずに入ったお店の場合はどうでしょう。
まずまずの味であっても満足できますし、料理が美味しかった場合は非常に得をした気持ちになります。

そして、謙虚さや誠実さをアピールという狙いもあります。
こういう小噺があります。
ある町内に、全く同じものを扱う3軒の店がありました。
1軒目の看板は「国内で一番安い店!」
2軒目の看板は「世界で一番安い店!」
さて、それを見た3軒目は何と書いたか。
……実は「町内で一番安い店!」と書いて、逆に一番お客さんが入るようになったとか(笑)。

これは小噺ですが、このように「過剰広告を出さない」という点で信頼が生まれたり、「身の丈にあっている」という点で誠実さが伝わったりという場合があります。
最近見かけることが増えてきた「このエリアで2番目に美味しい店」などといった表現も、それに近いのかもしれませんね。

ただし、これらは結構特殊な事例。
美味しいものを食べたいお客さんに対して「まずい店」と堂々と謳うのは、なかなか勇気がいるチャレンジであるという点はご了承くださいね。

看板には目標が書かれている?

最後にポジティブな話を。

人気うどんチェーンの「丸亀製麺」。
こちらの一号店は香川県の丸亀市ではなく、兵庫店で産声をあげました。
また、人気たこ焼きチェーンの「築地 銀だこ」。
こちらも一号店は、東京の築地や名前の由来の銀座ではなく、群馬県にオープンしています。

ではなぜ、このような社名にしたのでしょう。
まさか、産地偽装!?

そうではなく、これらのお店には「よく食べていた故郷の丸亀の製麺所のようなうどん店を作りたい」「たこ焼きを始めるにあたり毎日通った築地の名前を入れ、いつか銀座で店を出したい」といった願いが込められています。

たしかに店名や看板というのは、そこで仕事をしていると毎日のように目に入るもの。
もちろんお客様に誤解をさせてはいけませんが、「うまい店」「やさしさ第一」といったの目標などを入れておくと、初心を忘れることなく励むことができるかもしれませんね。

「なるほど。偽りといっても、意図的に悪意があるわけじゃなく、こうありたいという姿を反映させている場合もあるんですね」
そうだね。この場合は特に、現状と開きがあると「なんで!?」という意見が入ることで、「まだまだ自分はそこまでに達していないんだな」という気付きにもなるからね。

ん、何か言いたそうだけど、どうしたの?
「そういえば先日、Web掲載用にお写真をお願いした件なんですが」

ああ、送ったけど、あれが何か?
「あのお写真、奇跡の一枚というか、すごく修正がありまくりの気がするんですよね。カッコイイ姿じゃなくて、普段のお写真を頂けないですか?」

え、えーと。
あれこそ、ああなりたいという姿であって、決して偽りというわけじゃ……トホホ。